運営事務局より、全2回にわたり本プロジェクトの取組を紹介します。
ぜひ最後までご覧ください。(PDF版はこちら)
〜東京都新事業発掘プロジェクト事業・パネルディスカッション イベントレポート〜
大企業等の民間企業に眠る人材や知財、技術といった原石を活用してイノベーションを巻き起こしていくことを目指す『GEMStartup TOKYO』(運営:株式会社ボーンレックス)。
2024年1月17日、同プロジェクトは、Hondaの新事業創出プログラム「IGNITION」の立ち上げから絶え間ない実績創出を推進する中原大輔氏と、GEMStartup TOKYO運営事務局を務める株式会社ボーンレックス代表取締役室岡拓也によるパネルディスカッションを開催いたしました。
新事業立ち上げにおいて、企業が期待する実績を新事業担当者が創出し、担当者が挑戦しやすい環境を創出していくことが重要です。そのサイクルをつくるうえでキーとなる「事務局」(企業と担当者を繋ぐ存在)の在り方と、担当者が起業家になっていくプロセスについてさまざまな視点からトークが展開された当日の様子をレポートします。
今回のパネリスト
IGNITIONは「共創」と「自律」を核とした社内ベンチャー育成アプローチ
イベント冒頭にIGNITIONの制度についてご説明いただきました。
本田技研工業株式会社/中原氏(以下、中原氏):特徴のひとつは、事務局メンバーの半数がデザイナーであること。新規事業を手掛けた際、上司や役員に自分の考えを伝えるのが難しかったという経験をもとに、起案者のアイデアがきちんと伝わるよう、意図的にデザイナーを多く起用しています。そして、最大の特徴はHondaの出資比率を20%未満に抑え、リード投資家の手厚いサポートを受けられるようにしていることです。
パネルディスカッションでは、IGNITIONの制度を深堀しながら、挑戦者を支える事務局の在り方について熱い対話が繰り広げられました。
何度も提案し駄目でも引き下がらない
事務局は挑戦者の思いを背負うことで可能性は開かれる
株式会社ボーンレックス/室岡(以下、室岡):プログラムの出口に投資家を付けて起業させることが条件としてする仕組みになったのは、冒頭から何か思いがあったのでしょうか?
中原氏:プログラムを立ち上げた2017年は、新規事業は社内事業の評価と同じような形になっていました。そのため、精度の高いものしか審査を通過できず、社員はチャレンジしづらくなっていました。
また、Hondaというブランドは品質を非常に重視していますので、ブランド名を付けて中途半端なものを世の中に出すことができません。そこで、本田技研工業株式会社(以下、Honda)からの出資を20%未満にすることで、ブランド名は背負わず社外で事業を立ち上げることになります。ある程度、事業が形になり、社内で評価できるところまで到達した時に本社は買収し、社内部門としてスピンインする仕組みに変えました。
室岡:企業は当然失敗したくないので、決裁をする人は、失敗しないという確証を持てないとゴーサインを出さないことが、一般的な日本の大企業で起きているイノベーションのジレンマだと思っています。
IGNITIONを運営している中で、中原さんが『これは違うな』と思ったとしても、簡単にプログラムの体質改善をすることはできません。どのように変えていくことができたのでしょうか。
中原氏:IGNITIONの出口をベンチャー企業の創出に変える際は、執行役員5人に対し、2週間に1回程議論の場を設けて頂きました。そこで、何度も話し合いを重ね、同意形成が取れたものを社長、副社長に話をしにいきました。最初は、「なんでこんなことやるのだ」と言われました。2回目、3回目の提案も駄目でしたが、5回目でようやく承認を得ることが出来ました。
室岡:事務局の方からすると50回提案をしたが、駄目だったという方もいるかと思います。
中原氏:社長、副社長に反対されたら、変えていくことが無理なのかもしないと最初は思っていました。それでも引き下がれなかったのは、カーブアウト1号案件の株式会社Ashiraseの千野さんの存在があります。
この制度を作る前、彼から『会社を辞めて独立するか、会社に残るか』相談がありました。私は、千野さんがとても頑張っていることを知っていましたので、『制度を変えるから、会社を辞めるのは待ってくれ』と伝えた手前、引き下がることができませんでした。
事務局が挑戦者を支えることが内発的動機の炎を絶やさないために重要
中原氏:Hondaは創業当時から業務時間の20%程度を自由に活動できる文化があり、アイデアコンテストなどを実施していました。しかし、内発的動機からアイデアが生まれても、多くの場合、品質保証を問われると検討が止まってしまいます。
室岡:私は、起業家の方が内発的動機を持ちやすいと思っています。なぜなら自分たちはあと何ヶ月しか生きていけないという事が見えているからです。
資金が底を尽きるからというよりも、資金があるうちに世の中に認められないと自分たちはスポイルされてしまうという外圧も含め、前進させるという意欲がすごく強いです。
一方で大企業の中においては、内発的動機を継続的に燃焼させる仕組みを作ることがかなり難しいかと思います。この観点で、IGNITIONのプログラムの中で、熱量をどう保ち続けているかお伺いしたいです。
中原氏:事務局で一番気にしてケアをしているのは、審査に通過しなかった人のフォローアップです。鉄則として、通過しなかったどんなアイデアも否定しませんし、メンターからフィードバックレターを送るなど手厚くフォローアップしています。
また今期から研修プログラムの位置づけでIGNITION Studioを立上げ、通過できなかった人をフォローする活動を行っています。
迷ったときは原点に立ち返ることが成功の鍵
室岡:挑戦者の方に、新規事業で取組んでいるテーマは、3ヶ月間寝る暇を惜しみ取り組めることですかと、聞くことがあります。
挑戦者が『ちょっとやってみたいな』という程度であれば、今後乗り越えられない壁がたくさん出てきてしまいます。でも、熱量や情熱があると、自分が何のために頑張っているのかを常に自分に言い聞かすことができます。これってすごく重要なポイントだと思います。
また、これに関連することとして、会社員の多くの人たちは、上司のオーダーに従うことを徹底訓練されます。5年、10年、20年と訓練されてきた方に対し、上司から『内発的動機で何してもいいですよ』と言われても、困ってしまうことが多いと思います。
私たちは普段そういう方々と接するときは、いかに感情を焚きつけていくかっていうところにすごく時間を使います。これについて、IGNITIONの取り組みでは、何か工夫をされていることはありますか。
中原氏:Hondaのスポーツカーである「CIVIC TYPE R」というシリーズは上司からのオーダーから作られた製品ではありません。『こんな車があったらいいな』と検討していた際に、役員から『もっと面白い案はないか』と言われ、提案し製品化に至りました。20%ルールがある中で、研究所でたくさんのアイデアが生れているのは、Hondaの文化なのかもしれません。
事業化するためには、本田宗一郎と藤沢武夫のように、ビジネスに思いがある人と、それをフォローする人が必要だと思っています。IGNITIONはミニ本田宗一郎が沢山いる中で、藤沢武夫のような存在をどう作っていくかということで、VCからの資金調達を事業化の条件にしています。
ベンチャーキャピタルがリード投資家になり、藤沢武夫の役割を担うことで、アイデアが事業として成立していけるのではないかという発想でIGNITIONの仕組みを作っています。
室岡:Hondaさんが創業され間もない頃の歴史を1つ教科書にして、その状況をどうやって擬似的にでも作っていけるのかというところにかなり試行錯誤をこなされているのですね。
中原氏:そうですね。迷ったときは原点に戻ることが重要だと思っています。Hondaはベンチャーのような活動をしていたので、そういった意味で、当時のスピリッツみたいなところをここで体現できないかと思い、このプログラムを作っています。
室岡:素晴らしいですね。中原さん本日はありがとうございました。
<最後に(まとめ)>
パネルディスカッション中、真剣にメモを取る参加者の方々がとても多かった今回のイベント。パネルディスカッション後の座談会では、参加者同士で積極的に意見交換をしている様子が印象的でした。アンケートで参加者の皆様から届いた感想を、いくつかご紹介します。
・会社は殆ど出資せず、アセットも使わせない、見返りも求めない、IGNITIONはいわば新規事業の学校のようなものだと思いました
・イグニッションの内情、信念がわかり、とても素晴らしいです
・事務局の体制が企業ごとに全然違うことが新鮮でした
GEMStartup TOKYOでは、2024年3月14日(木)に2023年度の成果報告会を実施いたします。成果報告会では、先輩起業家の登壇から始まり、今年度採択企業でカーブアウトに向けて走り抜ける5者の発表、挑戦者を支える事務局の報告会があります。
詳細は、本事業webサイトニュースページをご覧ください。